春夏秋冬「冬の過ごし方」
「今日のお別れ会」
今から20年くらい前、僕が社会に出たばかりのころ。
当時勤めた会社のあった浅草で、実の親以上に可愛がってくれたのはいきつけの飲み屋の親父、「なかむら」の“おとう”でした。
月末といえば呑んでスッてスッテンテンになってしまう僕らにタダ飯食わしてくれたり、夜遊びが過ぎて終電に乗れなかった僕らをお店の二階で寝泊りさせてくれたり。世話になった逸話をあげるとキリがない。 社会人としてのイロハは全て“おとう”に教わっような気がする。
以下はその“おとう”が教えてくれた、「冬のすごし方」というお話。
***
「人にはな、誰にでも春夏秋冬、季節ってのがある。」
「その季節がわかってなきゃどんな風が吹いてるかわかんねえもんだ。」
「特に大切なのは“冬”のすごし方だよ。」
「春にはしゃぐのも夏に羽のばすもの、誰にでも出来んだ。」
「でも大切なのは冬。冬のすごし方で全てがきまる。」
「冬は何したってだめ。無駄に体力を消耗するだけだからな。そもそも実りのない季節なんだ。そんな季節に食い物探しても苦労するだけだろう?」
「なのに無い物を無理して探そう、挙句は人から奪おうとするからオカシクなるんだよ。」
「戦争ってのはな、いつもそうやって冬のすごし方を知らねえ奴が起こすもんなんだ。」
「そこいくと動物は賢いよ、ちゃーんと冬のすごし方をしってる。じーっとしてカラダを休めて次の季節に備えるんだ。冬眠ってやつだな。」
「だけど、じっとして寝てるだけじゃだめだよ。いつまでも寝てるわけいかねえんだから。寝てたって何も変らねえから。」
「寝てるようにみえてな、五感を集中させてるんだ。次の季節の訪れを、こう耳そばだててよ、”春”の訪れを、その兆しをよ、片時も聞き逃さないように、じーっと待ってんのよ。全神経を集中させてな。雪山に閉ざされた野兎みたいにな。」
「そんな季節がわかるようになったらようやく一人前だ。あとは風を読むことだな。春夏秋冬東西南北が誰にも必ず半壮に二回くんだからよ、
あ、
ロン! それアタリね!
メンタンイーペー、
あ、ごめんウラドラついてハネちゃった!
だからいったろー!おとなしくしとけって!(にやにや)」
・
・
・
僕がまだ二十歳そこそこだったころ、手取り十数万もないくせにリャンピンで打って麻雀卓の上を万札が飛び交っていたころ。
そして“おとう”に毎月カモられていたころ、のお話でした。
***
その「なかむら」が日本橋本町に移転して10年。入居しているビルの再開発にのまれて、この6月を以って暖簾を下ろしました。
浅草時代から含めると43年。いつのまにか“おとう”は73になっていた。
「ウチのチビ達が成人したら真っ先に連れて呑みにいくよ」って約束していたのに。
長い間、ホントにお疲れ様でした。

お店を出て別れるときに、帽子をとって「長い間ありがとうございました。」と僕らに敬語で言った“おとう”の姿が忘れられない。
今から20年くらい前、僕が社会に出たばかりのころ。
当時勤めた会社のあった浅草で、実の親以上に可愛がってくれたのはいきつけの飲み屋の親父、「なかむら」の“おとう”でした。
月末といえば呑んでスッてスッテンテンになってしまう僕らにタダ飯食わしてくれたり、夜遊びが過ぎて終電に乗れなかった僕らをお店の二階で寝泊りさせてくれたり。世話になった逸話をあげるとキリがない。 社会人としてのイロハは全て“おとう”に教わっような気がする。
以下はその“おとう”が教えてくれた、「冬のすごし方」というお話。
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「人にはな、誰にでも春夏秋冬、季節ってのがある。」
「その季節がわかってなきゃどんな風が吹いてるかわかんねえもんだ。」
「特に大切なのは“冬”のすごし方だよ。」
「春にはしゃぐのも夏に羽のばすもの、誰にでも出来んだ。」
「でも大切なのは冬。冬のすごし方で全てがきまる。」
「冬は何したってだめ。無駄に体力を消耗するだけだからな。そもそも実りのない季節なんだ。そんな季節に食い物探しても苦労するだけだろう?」
「なのに無い物を無理して探そう、挙句は人から奪おうとするからオカシクなるんだよ。」
「戦争ってのはな、いつもそうやって冬のすごし方を知らねえ奴が起こすもんなんだ。」
「そこいくと動物は賢いよ、ちゃーんと冬のすごし方をしってる。じーっとしてカラダを休めて次の季節に備えるんだ。冬眠ってやつだな。」
「だけど、じっとして寝てるだけじゃだめだよ。いつまでも寝てるわけいかねえんだから。寝てたって何も変らねえから。」
「寝てるようにみえてな、五感を集中させてるんだ。次の季節の訪れを、こう耳そばだててよ、”春”の訪れを、その兆しをよ、片時も聞き逃さないように、じーっと待ってんのよ。全神経を集中させてな。雪山に閉ざされた野兎みたいにな。」
「そんな季節がわかるようになったらようやく一人前だ。あとは風を読むことだな。春夏秋冬東西南北が誰にも必ず半壮に二回くんだからよ、
あ、
ロン! それアタリね!
メンタンイーペー、
あ、ごめんウラドラついてハネちゃった!
だからいったろー!おとなしくしとけって!(にやにや)」
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僕がまだ二十歳そこそこだったころ、手取り十数万もないくせにリャンピンで打って麻雀卓の上を万札が飛び交っていたころ。
そして“おとう”に毎月カモられていたころ、のお話でした。
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その「なかむら」が日本橋本町に移転して10年。入居しているビルの再開発にのまれて、この6月を以って暖簾を下ろしました。
浅草時代から含めると43年。いつのまにか“おとう”は73になっていた。
「ウチのチビ達が成人したら真っ先に連れて呑みにいくよ」って約束していたのに。
長い間、ホントにお疲れ様でした。

お店を出て別れるときに、帽子をとって「長い間ありがとうございました。」と僕らに敬語で言った“おとう”の姿が忘れられない。